「先生、息子大学に合格しました」

 先日、私の歯科医院に勤めてくれているスタッフの女性が話してくれました。高校を卒業して、大学に合格したというのです。私もそのお子さんは小さい時からよく知っている子でしたので、共に喜ばせていただきました。数日後、そのスタッフの女性がこんなことを言うのです。

「先生、息子のアパート探してきました。スーツも買ってやったんです。昨日そのスーツを家で着せてみたんです。そしたら、変ですね、涙が出てきたんですよ」

カルテの整理をしながらその女性スタッフは話してくれました。

「今まで、私のこの手のひらの上で十八年間、かわいい、かわいいと育ててきました、でもそのスーツ姿を見ていると、この手の上から離れて行ってしまうのか、もうこの手の上には戻っては来ないのかと思うと、涙が出てくるんです。合格してくれて、成長していってくれるというのに変ですよねえ」

 子供の成長は親にとってはこの上も無い喜びです。しかし自分から離れていってしまうという、別離(べつり)の悲しみもまた確かにあります。

宗祖親鸞聖人は、ご自分のお弟子の死に会い、お手紙を送られます

「かえすがえす うれしく候ふ」 と

 ご自分のお弟子との、この世での別離(べつり)が悲しくないわけがありません。しかし、あのお弟子は、必ず浄土に往生させていただいているのだ ということを、疑いの無い眼で見られる親鸞聖人にとっては、

「うれしく候ふ」 といただけるのです。

浄土に往生させていただくということは、この世での別離(べつり)の悲しみをも超える、それほどにまで喜ばしいことなのです。

春は新しい出会いの季節であると同時に、別れの季節でもあります。そのお別れした先がすばらしい世界であるならば、別れの悲しみも、喜びの気持ちで()(あふ)れてまいります。
 親元から離れていく、スタッフのお子さんには、大爆音ベル付きの目覚まし時計を私からプレゼントしました。明日からは自分で起き、自分で食事をし、自分で問題を解決していくんだよという気持ちを込めて。そしてお母さんの大きな喜びと、少しのさみしさも込めて・・・




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